研究活動(2011年)

東北地方太平洋沖地震の長周期地震動シミュレーション

平成20年度より、国土交通省の建築基準整備促進事業にて、経験式に基づく長周期地震動作成法について検討しております。この経験式は、国土交通省「超高層建築物等における長周期地震動への対策試案について」という意見募集(平成22年12月~23年2月末)の中でも用いられております。東北地方太平洋沖地震を3つの断層でモデル化して、この式により長周期地震動のシミュレーションを行いました。図には、丸印で示した強震観測点でのシミュレーション波形から計算した周期3秒における減衰定数5%の擬似速度応答スペクトル分布を示します。これは、観測波形のスペクトル分布とよく対応している結果となりました。今年度は、東北地方太平洋沖地震やその余震等を含めて、この経験式のさらなる改良と南海トラフ沿いの巨大海溝型地震の長周期地震動予測を実施中です。

正断層の調査(いわき)

2011年4月11日17時16分頃、福島県浜通りを震央とする地震(Mj7.0)が発生しました。この地震は、3月11日の東北地方太平洋沖地震(Mw9.0)による地殻変動に伴う陸側プレートの引張場で発生した正断層型の内陸地殻内地震であると考えられており、いわき市郊外に走向の異なる複数の地表地震断層が出現しました。正断層型地震による地表地震断層の出現は東北地方では極めて稀であり、地震の特性を解明するための貴重な情報源であることから、6月6日に断層周辺の広域にわたる現地調査を行いました。
田人町を中心に塩ノ平断層および井戸沢(いとざわ)断層を、遠野町と常磐藤原町において湯ノ岳断層をそれぞれ調査しました。現地調査で確認できた地表断層は概ね鉛直変位を示し、変位量は最大約2 m弱でした。正断層であるという固定観念のためかもしれませんが、今回調査した断層の印象は上盤側で大きな変形がなく、下盤がそのままずり落ちているように感じました。なお、地表断層直上では大破した家屋が数件確認されましたが、地表断層周辺での倒壊家屋は確認されませんでした。

米国の研究動向紹介

地震学・地震工学の研究分野で最先端を行く国の一つである米国では、1990年代前半に発生したランダース地震(1992)・ノースリッジ地震(1994)以降被害地震は殆ど発生していません。このため、最近は特定のシナリオを設定した地震動シミュレーションや複数の数値計算手法による計算結果の比較といった理論的・数値的な研究が多く見られます。一方で地震のデータ解析に基づく研究の多くは海外の地震で得られたデータを使用しています。東北地方太平洋沖地震は、巨大地震の発生メカニズムだけでなく地盤の液状化被害など様々な分野で非常に高い関心を集め、多くの地震学者・地震工学者が研究を行っています。4月の米国地震学会年次大会(SSA)、当研究所からも参加した8月の「表層地質が地震動に及ぼす影響(ESG)に関する国際シンポジウム」(サンタバーバラ)と12月の米国地球物理学連合年次大会(AGU、サンフランシスコ)では、東北地方太平洋沖地震に関する特別セッションが開催されました。ESGでは米国だけでなく、フランスの研究者からも多くの発表があり、世界的な関心の高さがうかがえます。

放射性廃棄物処分における廃棄体回収技術

高レベル放射性廃棄物の地層処分事業においては、廃棄体を埋設する作業途中に人工バリア材の損傷が生じる場合も想定されます。そのような場合には、取り出して修復することも考えるため、廃棄体の回収方法を確立しておくことが求められます。基本的には、廃棄体を定置する手順を逆に行えば回収可能ですが、廃棄体の周囲は厚さ70cm程度の緩衝材で取り囲むため、この吸水膨張性のベントナイト粘土を除去する技術を新たに確立する必要があります。
ベントナイトは、無機塩溶液(例えばNaCl溶液)で粘着力を減じさせて、スラリー化させることができます。現在、緩衝材をNaCl溶液でスラリー化させ、表面線量が高い廃棄体の周囲から遠隔操作で除去する技術について取組んでおり、国の実証試験に役立つ技術となるよう研究を進めています。