研究活動(2017年)

熊本地震による断層ごく近傍の永久変位に関する研究

現在、我が国における断層モデルによる強震動予測は、文部科学省の地震調査研究推進本部で公表された手順(いわゆるレシピ)にしたがって行われています。しかしながら、この手順では地表付近の数キロメートルの断層破壊がモデル化されておらず、原子力規制委員会の審査ガイドでは、この部分を正しくモデル化することが要求されています。これを受けて当社でも、4年前よりこの課題に取り組んできました。
このような中、2016年4月に発生した熊本地震本震では、断層ごく近傍で貴重な強震記録が得られ、この課題の解決に向けた研究が大きく前進しました。検討の対象としたのは、地表地震断層から2km離れた益城町の強震記録と700 m離れた西原村の強震記録です。

図1は、益城町と西原村における変位記録と計算波形を比較したもので、従来通りの深部断層のみからの計算波形では益城町の変位記録は説明できても、西原村の変位記録は説明できないことがわかります。
これらの検討は、浅部断層にすべりを強制的に与えた場合の結果ですが、断層全体のすべりを自発的に発生させる動力学的断層破壊シミュレーションも実施し、力学的な裏づけも蓄積しつつあります。

巨大海溝型地震の設計用長周期地震動の検討

平成28~29年度の建築基準整備促進事業にて、相模トラフ沿いの巨大地震に対する長周期地震動作成法の検討を行っております。図2には、構築した長周期地震動作成法により1923年関東地震に対して推定した周期5秒での減衰定数5%の擬似速度応答スペクトル(pSv)分布を示します。地下構造の違いを反映した地震動を簡単に推定できるようになりました。
相模トラフ沿いの巨大地震は、首都圏の設計用長周期地震動策定に重要な地震であり、引続き検討を行って参ります。

高圧ガス設備を対象とした遠心模型実験

高圧ガス設備等耐震設計基準の性能規定化に向けた調査研究のうち、球形貯槽を対象に地盤と上部構造との動的相互作用効果の把握のための遠心模型振動実験を、清水建設技術研究所の協力により実施いたしました。 遠心模型実験では、相似則により重力場での実験に比べると模型サイズを小さくでき、地盤の拘束圧を実際の地盤に近い状態に再現できる長所があります。
今回の遠心実験では杭基礎と地盤を有するモデル(写真1)と地盤のない基礎固定モデルの2通りの振動実験を30Gの遠心場で実施いたしました(縮尺1/30)。2つのモデルの応答を比較検討した結果、地盤との相互作用を考慮すると基礎固定の場合に比べて、上部構造の加速度が40%程度に小さくなることが確認できました。