研究活動(2012年)

南海トラフの巨大地震の断層モデルの設定

2012年、内閣府から公表された南海トラフの巨大地震の震源域には、強震動と津波を引き起こす深部の断層面とともに、津波を増大させる浅部の断層面も含まれています。一方、強震動を生成する断層と津波を引き起こす断層は、従来、解析方法の違いや対象とする周期の違いにより別々のモデルとして扱われてきました。
本研究では、津波も強震動も断層破壊という共通の現象の結果であるという観点で、両者の統一断層モデルを考えました。具体的には、2011年東北地方太平洋沖地震の断層パラメータが従来の強震動予測で用いられている断層パラメータの相似則の延長線上にあることを確認したうえで、強震動と津波の予測のための統一断層モデルをアスペリティモデルで表現し、ついで、そのモデルに基づいて想定地震の断層パラメータの設定手順を考案しました。また、考案した断層パラメータの設定手順を南海トラフの巨大地震に適用し、強震動と津波の予測のための統一断層モデルの設定例を提示しました。図にマグニチュード9.1の巨大地震の断層モデルの設定例を示しています。
研究成果は、2012年ポルトガルで行われた第15回世界地震工学会議で発表しました。今後破壊領域を変えて異なるマグニチュードの巨大地震の断層モデルを設定し、強震動と津波の評価を行う予定です。

南海トラフの最大クラスの地震を想定した津波伝搬シミュレーション

瀬戸内の石油ガス国家備蓄基地における津波対策の一環として、南海トラフでの最大クラスの地震を想定した津波シミュレーションを行い、瀬戸内海における津波の伝搬特性について考察しました。内閣府(2003)の断層モデルをベースに、3つのシナリオを独自に想定しました。特に当該基地での最悪シナリオとして、断層破壊の時間差を考慮した検討ケースにおいて津波高さの増大が顕著でした。倉敷では断層領域全体が同時に、波方では東から西に順次断層破壊が進展するケースで到達する津波が最大となりました。さらに北方への震源域拡大も考慮したところ、瀬戸内海全域での地盤沈降量が大きくなり、津波高さもさらに増大しました。結果は津波対策の設計に反映されることになりました。

ボクセル有限要素法による交通振動のシミュレーション

ボクセル有限要素法による効率的な手法により、構造物と周辺地盤の3次元環境振動シミュレーション技術を開発しました。
図は鉄道振動の評価に適用した例です。高架橋の橋脚位置での振動実測値のスペクトルは、構造物特性や加振力成分に起因する振動数成分が励起されています。シミュレーション解析による実測結果の説明性は良好です。
周辺地盤においては、加振源から数m離れた位置で振動レベル値が10dB程度増幅する特徴が見られました。特定の振動数成分の増幅に起因するものですが、解析においても実現象の傾向を概ね再現できました。振動発生のメカニズムの解明や対策工法の検討に有効なシミュレーション技術と考えています。