研究活動(2021年)

地震波を用いた各種の逆解析(インバージョン)手法による広帯域の断層破壊過程の解析

 地震は地下深くで起こるため、地表での観測波から逆解析(インバージョン)により間接的に地下で起こっている現象を推定する必要があり、様々な手法を用います。
 弊社では、異なる逆解析手法を用いて、複雑な断層破壊過程を総合的に解析・評価できる環境を整備中です。
  一例として、福島県沖の地震(2021年2月13日、M7.3のスラブ内地震)に3種類の手法を適用しました。
  地震波走時を用いたバックプロジェクション法(1)では少ない仮定から断層面上における地震波放出エネルギーの時空間進展の概略を推定できます。
  理論グリーン関数を用いた波形インバージョン法(2)は、カリフォルニア大学サンタバーバラ校と連携して整備している、米国で標準的な手法の一つで、主に長周期帯域を対象とし、断層面上のすべり分布、すべり時間関数、破壊伝播速度等が推定できます。
  経験的グリーン関数を用いた波形インバージョン法(3)は、余震等の小規模な地震の観測波形が必要ですが、(2)よりも短周期帯域の地震波に影響する断層面上の強震動生成域の推定に適しています。
 3つの手法による断層面上の破壊伝播性状は概ね整合しました。右図は、(2)による断層面上のすべり分布と(3)による強震動生成域を重ね描いたもので、すべり量が大きい場所と強震動生成域がほぼ同じ位置にあります。

震源断層モデルの設定のための短周期レベルの再構築

 地震調査研究推進本部の地震動評価方法(レシピ)では、S-M0 関係と M0-A 関係を与えます(S : 断層面積, M0 : 地震モーメント, A : 短周期レベル = 断層面から出る短周期の波の総量に関わる指標)。 S-M0 関係では地震規模に応じて3つの式を切り替えますが、M0-A 関係にはこれまで壇・他(2001)の式を使用してきました。
 弊社はこのたび、国立研究開発法人防災科学技術研究所殿からの委託業務の一環として、レシピが採用する3ステージの S-M0 関係に対応する M0-A 関係式の再構築に取り組みました。右図は、新たに提案する3折線モデル(仮称)と16地震の観測記録から求めた短周期レベルを重ね描いたもので、M0-A 関係を平均的によく捉える壇・他(2001)とも概ね一致しています。
 強い短周期の地震波を専ら放出するアスペリティが断層面に占める比率は M0 によらず同程度と考えられており、S を仮定すればアスペリティ面積が決まります。一方、S-M0 関係は S の大きさで三通りに切り替わるので、一定の M0-A 関係を用いると、アスペリティの単位面積当たりで見た A が変動し、対応する応力降下量も影響を受けます。しかし、S-M0 関係に合わせ3ステージで切り替わる M0-A 関係に変更すれば、M0-A 関係を一定にした場合よりも観測記録に基づく推定値に近い応力降下量が求まるようになります。

プログラムソースの公開

 弊社の社会貢献の一環として、創立者 大崎順彦の著書である「新・地震動のスペクトル解析入門」(鹿島出版会、1994年)に掲載されているFORTRAN77のプログラムソースを弊社HP(*)にて2021年6月に公開しました。
 書籍には使用例は示されていますが、計算結果が必ずしも掲載されていないことから、使用例に用いられている波形のデジタル値及び計算結果を含めた解説文も同時に掲載しました。
 また、2021年8月に京都にてオンライン開催された国際会議(ESG6)のセッションで弊社がスポンサーとなったことを契機に、英語版の解説と使用例も8月に追加しました。
 書籍の正誤表も併せて掲載しましたのでご利用ください。公開プログラムの使用はご自由ですが、使用者個人の責任でお願い致します。
 最後になりましたが、ソースコードと解説文の公開を快くご承諾頂きました、大崎先生のご家族の皆様と出版社である鹿島出版会様に深く感謝いたします。
() http://www.ohsaki.co.jp/activity/download/index.html

「富岳」成果創出加速プログラムへの参画

 弊社は2020年度より、国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)殿が代表機関である「富岳」成果創出加速プログラム「大規模数値シミュレーションによる地震発生から地震動・地盤増幅評価までの統合的予測システムの構築とその社会実装」に、連携機関として参画しています。若手研究員を主体に、地震動に係る大規模数値シミュレーション手法の習得や、地震動評価の実務への展開を目標としており、世界のスーパーコンピュータに関するランキングのTOP500、HPCG、HPL-AI、Graph500において4期連続世界第一位を達成した「富岳」を利用して、従来よりもさらに大規模な問題に取り組んだり、より精度の高い計算を行うことが可能になるものと考えています。