研究活動(2020年)

2016 年熊本地震震源近傍での非線形地盤震動解析

 2016年4月の熊本地震の本震(Mj7.3)では、益城町及び西原村で最大震度7を観測するなど、熊本地方を中心に大きな被害をもたらしました。益城町には防災科学技術研究所の基盤強震観測網(KiK-net)の観測点(KMMH16)が設置されており、本震の強震記録が地表及び地中で得られています。弊社は京都大学防災研究所と共同で、熊本地震本震時の震源付近の面的な地盤応答と実際の被害状況との対応を検討することを目的とし、まず益城町の地中の観測点で得られている3方向の加速度記録を用いた有限要素法による非線形時刻歴シミュレーション解析を実施して、地表面での観測記録と比較しました。図に結果の一部を示しますが、地盤物性として既に報告されている非線形特性に加えて振動数に依存する散乱減衰を考慮することにより、特に後半部の解析結果が改善されていることが分かります。

「伊方SSHAC プロジェクト」への参画

 原子力分野のリスク評価で、認識論的不確実さ(知識が不足あるいは不正確であることに起因する)を組織的に評価するために、国際的な基準(SSHAC:Senior Seismic Hazard Analysis Committee レベル3ガイドライン) が定められています。「伊方SSHACプロジェクト」は、伊方発電所に対する確率論的地震ハザード評価において、SSHACの要求事項を忠実に実践する、日本初の取り組みです。
 SSHACでは、認識論的不確実さを考慮するロジックツリーに対して、説明性・質・透明性を高めることを要求しています。それを実践するために、5年の期間と50名以上の国内外の専門家が関わり、入念な討議を重ねるとともに、結果の妥当性を様々な角度から分析しています(図参照)。
 弊社は、このプロジェクトの中で主として地震ハザード解析の支援をさせて頂きましたが、技術的な面だけでなく、討議の進め方などについて、大変勉強になる貴重な機会となりました。今後も、このような取り組みを広めていくように努力いたします。

高速鉄道トンネル内の圧力変動履歴の予測

 高速鉄道の長大トンネルでは、突入波や退出波とその反射波が生じます。横坑内では、これらの圧力波が分岐したり、列車の通過で新な圧力波が生じることもあります。また、ダイヤにより上下線で複数の列車がトンネル内を走行することもあるため、トンネル内の圧力変動を予測することは容易ではありません。そこで、長大トンネル内を複数の高速鉄道が走行することで発生する圧力波の挙動を、特性曲線法による一次元数値解析により再現し、それらが重畳することで発生する複雑な圧力変動を長期間にわたり評価しています。このような手法により、合理的な評価の難しかった長大トンネル内の施設や設備の圧力変動による累積疲労の検討が可能となります。

参考文献:宮本ほか, 超高速鉄道トンネル内に発生する圧力変動履歴の再現と覆工構造の疲労に関する検討, 土木学会論文集A1 (構造・地震工学),Vol.76,No.1,94-109,2020

UAV(無人機)を用いた大型PC 橋梁の点検用3Dモデルの構築

 橋梁の維持管理のための点検は、技術者による近接目視が基本ですが、高橋脚、PCラーメン橋、アーチ橋、斜張橋など、近接目視が難しい大型橋梁などを対象に、近年、UAV(unmanned aerial vehicle)に代表されるロボットによる画像取得を近接目視の代替として用いる技術が開発され実用化されています。
 2019年度、土木研究所からの委託研究の一環として、(株)計測リサーチコンサルタントと共に、高橋脚の大型PC 橋梁を対象としてUAVで取得した画像による橋梁の仮想近接目視に用いる3次元橋梁モデルの作成手法について検討を行いました。
 適切な性能のUAVやその組み合わせにより取得した画像からSfM(Structure from Motion)技術を用いることにより、0.2 mm幅のひび割れを検知できるオルソ画像を取得でき、近接目視による点検と同等の成果を得られることを確認しました。